「今のままではムリです」

 と言うのは、真の塾講師。

 ところが、多くの保護者の方も生徒の方も金の亡者の方を選択するのだから困ったものだ。

 

  塾や講師の選択眼もない子や、その保護者が頑張っても結果が出ないことは明らかだ。これは、私の意見ではなくて現実だ。ムリな期待と押し付けると、その子はつぶれてしまうし。

  「ビリギャル」やら「バカヤン」を真に受けてはいけない。もともと賢かった子が、一時的にグレていただけ。エジソンやアインシュタインも教師からバカ扱いを受けていた。しかし、それは教師が評価ができなかっただけ。

 

  なんで今頃「名南喫茶」が懐かしいのだろう。名古屋大学など好きではなかった。一緒に語っていた教育学部の連中も特別に好きではなかった。しかし、社会に出て長年受験指導をしていると

「でも、あいつら理屈は通じたよな」

 と思うようになってきた。それが懐かしさの元になっているらしい。バカな生徒を指導するのは、賢い生徒を指導するより10倍は体力を使う。解説が5倍くらい時間を使い、練習問題の採点も3倍くらいかかる。若い頃ならいいが、歳をとると体力がもたない。

  体力だけではない。同じことを3回、4回と解説しているとストレスが溜まる。

  ストレスだけではない。バカな生徒は勉強が嫌いなのですぐ塾をやめる。経済的にも不安定になる。

  経済的に不安定になるだけではない。バカな生徒は落書きやいたずらが多く、備品を壊すし汚すので修理代や清掃費がかかる。

  塾をやめる子が多いと、チラシで募集しないといけないから宣伝広告費もかさむ。当然、月謝を上げなくてはならなくなる。

  その上、バカな生徒だと塾で一番大切な「合格実績」も上がらない。ハッキリ言って、そういう生徒ばかりが集まって閉鎖や倒産に追い込まれた塾をたくさん見てきた。

 

  そういう経験が重なると、今はもう無い「名南喫茶」の日々が懐かしくなってくる。あの時に語っていた相手は、今思うと私の指導している優秀な子たちだったわけだ。そんな子たちに囲まれていたのだから、話が合わなくても最低限のマナーは保証されていた。

 

 アイスコーヒーを飲みながら、ホットドックのような「メイナンランチ」を食べて、藤棚の花を見上げていたのは昔のことになってしまった。指導教官も亡くなってしまった。

 

 

 

第二十四章

「本当のことを言え!」

  私は大学に入るまでは

「大学に行けば何でも分かる」

 と学問に絶大の期待を持っていた。サイエンスはこの世の全てを解明しているのだと信じていた。心理学を学べば、人の心は理解できると思っていた。そうでなければ、

「あの人の心は故障しているから、犯罪を許してあげましょう」

 なんていう精神鑑定が成立しない。

 ところが、名古屋大学の教授に会って授業を受け本を読んだら

「なんだ、コレは?すべてデタラメではないか」

 と思った。意識や知能といった基本的な概念でさえデタラメ。つまり、学者によっていろいろ説がバラバラ。普遍的な定義さえない。分かりやすく言えば、勝手に思いついたことを話しているだけ。それを支えるデータがない。

  精神鑑定に用いられるテストでさえ、よくて統計的な支えがあるだけ。つまり、数学的に言えば相関関係がいいところで因果関係の説明などいっさいない。

 

 カウンセラーは心理学系が多いだろうが、心療内科という医学系もある。それで、医学的なアプローチならもっと科学的かと本を読んだり人から話を聞いたら、脳の働きは謎、なぞ、ナゾの連発だった。つまり、何も分かっていない。

 脳どころか、生命が何かさえ分かっていない。

「同じ原子で出来ているのに、どうして人は動き、机は動けないのか」

 こんな当たり前なことさえ、明確な答えが出来ない。私は小学生に尋ねられたら答えられない。大人になったら、ランクの上の大学に行ったら、いろいろ期待したけど全て期待はずれ。結局、

「何も分からない!」

 ではないか。旧帝に合格し、英検1級に合格し、京大に合格できる数学力がついて、それでも何も進歩がない。何も分からないではないか。

 ノーベル賞をとっても、金メダルをとっても、世界一の金持ちになっても、私たちが住んでいるこの世界、つまり宇宙の構造が分かると思えない。自分の身体がどうして動くのかも分からない。病気や死を避けることも出来ない。

 

  教育産業にいると、教師や講師に日常的に会う。そして、その多くが分かったような顔をして授業を行っている。しかし、本当は何も分かっていないのだ。

「ごめんなさい。何も分かってません。ほんの少し分かっていることは」

  これが正しいスタンスのはず。

 

第二十四章

「美空ひばり」

 美空ひばりさんが、発声法や舞台での立ち振る舞いを事細かに説明しても誰も彼女のマネは出来ない。世界に同じ人間は二人としていない。当然ながら、塾講師も二人として同じ人間はいない。

 当塾のブログがジャンル一位になり、Youtube の再生回数が3万回を越える動画が現れ、京大医学部に何人も合格者が出始めた頃から

「何をどうやったらそんな実績が出せるのか?」

 と問い合わせが来るようになった。企業秘密でも何でもないのでブログや動画で公開している。しかし、方法論が分かったとしてもマネは出来ないのだ。サイエンスは再現実験が可能だろうが、人間は一回こっきり。再現など出来るはずもない。

 一番肝心なことは

「他の人が同じ歌を歌っても感動されないのに、なんで美空ひばりだけが?」

 という問い。音量とか音程とか、テクニックだけでは説明しきれない。受験指導も同じだ。同じ「チャート」を使っているのに、A子ちゃんは身につき、Bくんは身につかない。なんでだろう?才能か、環境か、動機付けか。

 才能や環境は生徒自身にはどうしようもない。できることは、動機付けだけ。強い動機付けがあると、才能や環境をはね返せる場合が多い。

 

 

  本物と偽者の違いは紙一重。

  本物は

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